2018年10月27日土曜日

No.9 ぶっくんのおかげで どれだけひとに出会えたか 本と出会ったか 

あなたは移動図書館を見たことはありますか。あるいは利用したことがありますか。移動図書館が市民の身近に、暮らしの中にあるとはどういうことなのか。一人の大学生が伊万里市民図書館の移動図書館(ぶっくん)をテーマに書き上げた卒業論文から、移動図書館の働きがくっきりと浮かびあがってきます。

 
 卒業論文を書いたのは九州大学教育学部の大賀菜々美さん。糸島市図書館サービス基本計画検討委員会の委員をされた九州大学の岡幸恵先生のもとで作成。論文のテーマは『生涯学習の拠点としての移動図書館の役割 ─ 伊万里市民図書館の移動図書館を事例として  ─ 』(平成29年度)で、論文はファイルに整理されていて伊万里学コーナーにあり、図書館で借りることができる。
 伊万里市民図書館 としょかん通信 平成30年初夏号(第203号) 1P



伊万里市民図書館の移動図書館は、伊万里市民図書館の開館(1995年、平成7年7月7日)の4年前の、1991(平成3)年6月、まだ「本館建設の目途が立っていない段階で」運行をスタートしている。市民待望の図書館がオープンする4年前に伊万里のまちなかを移動図書館が走り始めていることに、どんなに図書館を求める市民の粘り強い運動があったかがうかがわれる。(『図書館づくり運動実践記』第3章「協働」の図書館づくり、盛泰子、緑風出版、1997)「ぶっくん」は移動図書館の名前で、広く市民に公募され、二児をもつお母さんが提案されたものだ。

2年後の1993(平成5)年4月には、「ぶっくん2号」が運行を開始、現在はそれぞれ更新された「ぶっくん1号」(2010年、4トントラック改造)、「ぶっくん2号」(2017年、3.5トントラック改造)の2台で72のステーションを巡回し(学校の統廃合、小中一貫校1校の開始などにより平成30年の新年度より69ステーションとなる)、図書館全体の4分の1の貸出を行っている。

ちなみに、1954(昭和29)年の2町7村の対等合併で伊万里市となっているが、市の面積は255.25k㎡(林野と主要な湖沼面積を差し引いた可住地面積は114.91k㎡、人口密度481人/k㎡、 糸島市の面積215.7k㎡、可住地面積117.4k㎡、821人/k㎡)で広い市域を有している。人口5万6千人程の市で2台の移動図書館を27年間にわたって走らせている自治体は全国でも稀だ。

【日本図書館協会の『豊かな文字・活字文化の享受と環境整備 ─ 図書館からの政策提言』(2006年、2012年改正)では、「公立図書館の整備」の1で「市町村の図書館は、おおむね中学校区を単位とした住民の生活圏に整備すること。」と述べて、「すべての住民が利用できる身近な図書館とするために、中学校区(1校当たり平均可住地面積約8k㎡)を生活圏域として考え、それを目標に設置することを求め」ている。また、その2で、「地域の図書館は800㎡以上の施設面積で作り、5万冊以上の蔵書をもち、3人以上の専任職員を配置すること。」としている。】


 卒論の課題の設定の仕方や論の進め方からは学ぶことが多くあったが、とりわけ目を引かれたのは、「ぶっくん」を利用する利用者へのインタビューだ。大賀さんは2017年の3月に4日間、12月に3日間、「ぶっくん」1号と2号に乗って、各ステーションで利用の様子を見ると共に、利用者へのインタビューを行っている。また、次のインタビューは、「ぶっくん」に乗って巡回を終えて図書館に帰ってきた時に、図書館にきてくださった「ぶっくん」の常連さんからのお話だ。ブックん担当のお2人の司書が同席。

Kさん(60代)
 平成3年に1号が走り始めたときからですもんね。
今ファミマになっとるけど昔Aコープやったところに来とったんよ。あいとってからね。
びっくりしたあ、これ何 ?! 借りていいとですか?!って。
ぶっくんのおかげで どれだけ人に出会えたか。本と出会ったか。

旅行に行ったときにツアーコンダクターに、そんな本も読んできたとですかって言われたもんね。星野道夫さんの本とか。気持ちはもうアラスカよ。

みなさんのおかげで今の私がある。
福岡の人と話ししてね、ぶっくんのことを話したら弱者にこそそれよってね。
うらやましい。あなた恵まれとるー

リクエストすると、こんなイメージの本っていったらすーぐ返ってくる。
知らない世界も教えてもらえる。

人との出会いもある。
童話作家の方、いけのようこさん、版画の人なんだけど、その人ともつながりましたよ。
ぶっくんで持ってきてって言ったら、買えませんって言われて、北海道の剣淵町の絵本の館ってところに電話してね。

母もときどき私が借りてきたやつを広げてみるけど、これはこうよね、あれはああよねって違う世界が広がる。ぶっくんさまさまよ。

子どもは地図を見よって(見ていて)、これはカナダ、イギリスって覚えてね。ズボンが破れたときに、母がカナダで買ってきたワッペンをつけてやったんよ。そしたら、今日はカナダば履くけんって。(笑)
地球儀に興味をもって買ってやったら、「世界に行きたい」って言いだしてね。世界に行ってなんするとって聞いたら、オオクワガタとりに行きたいって。(笑)
それからやぶれてなくてもいろんなところにつけて・・・スイスのバッジもあったな。

ぶっくんでは、人とつながっていく。
人を思いながら選ぶんだろうね。

有田の400枚の絵があって、猫の本なんだけど、友達にたっくさん買いましたよ。
あとはおめでとうハッピハッピデイってやつも10冊買いました。CDの薄いやつが本に入ってて、、、絵本になってたら30歳50歳になったとき、生きててよかったって思うのよ。

昨日も電話してシリーズの名前言っただけで、ああ、あの作家の本ですねって。よく勉強してあるからね。どうしようかーこんな感じーというだけで、あの人のこれですね、って。すぐ子どもにも見せてあげられる。

孫は今は『わにまに』と『きつねになったら』にはまってね。てんとうむしがおるねー
これはなんとかやねーって言うんですよ。
公園に行くときも本をもっていくんですよ。かまきりの横に本開いて、ほらここに目がある! ほんとやん! って。まわりの親子からなんしよんやろって見られるけど、それが話すきっかけにもなるしね。
だんだん好きになるんですよ、本も。読んだからといってぼけないわけじゃないんやけど。

看護師さんに、図書館の本よーと言ったら、えーこんな本 ?!って。
リハビリの先生も旅行の本を読んでたら、新婚旅行で行ったんですーって。
本を介して人と出会える。
ぱらーっと広げて笑顔になれるのがいいよね。病院にいるときなんか。
こんなとこ行きたいーって。友達になれる近道よね、本と出会うことは。
本を持ってきてもらうことで、その橋渡しをしてもらってる。

(同席して、大賀さんと一緒にAさんの話を聞いていた、ぶっくん担当の職員の重田さん)
「いつもは(巡回の時)こんな話聞かないから新鮮です。いつもは、本の話とか、ヤギの話とか」

そうそう。今 ヤギを飼いたくなってるのよ。ヤギを見に、写真を撮りに行ったわ。
繰り返し繰り返し出会うことで自分が成長できる。
見て広げて本を見ることで親子も変化する。成長できるわね。感想言ってみたり、私も読んでみるけんとか。

「親子4代でご利用いただいてますもんね(重田さん)」

旅の話もする。こういうの行きたいとか。どうなると思う?って。モンゴルの上飛んだらどうなる?って。   (略)

子どもの本、ぐさっとくるね。『きつねのおきゃくさま』とか。この人(作家)は、どんな気持ちで書いているんだろうって。

うちんちは、子どもに4冊本を読み聞かせして、歌うたって、毎日ももたろうのお話をする。あるところにおじいさんとおばあさんが、、、というと、こどもがおばあさんが川へ洗濯に・・・って子どもが先ば言う。前にきつねの話を読んでも、ももたろうにすんなり入っていく。ギャップも受け入れられる。どんな風に話したらいいんだろう。
どちらも「正義」だけど、全然違うタイプ、なぜ子供はあんなにすんなり入っていけるんだろう。

最近の童話は難しい。大人でもぐっとくる。けれど、押しつけがましくはない。
図書館との出会いがあったからこそ、出会えた。新聞にこういうのがあるよって書いてあるのを読んでも読まないもの。
こたえてくださるから、とにかく読んでみる。 (略)

ちょっと読んでみたいなと思ったら、気に入ったところを読むだけでもいい。図書館がないと知らないことがある。

実際行った国もありますよ。帰ってきてやっぱりいいなあって。ぶっくんがないと、これはできない。本当に感動が全然違う。
スイスも行ってね。スイスの本また買いました。15冊ぐらい。母なんかは絵を描くんですけど、それを見て絵を描く。ずいぶん本を買いました。100倍ぐらい楽しい。せっかく行ったんだから楽しまなきゃね。

知らないジャンルも本から入る。歌だったらちょっと歌ってみようかなって。主人にも本を借りていきます。持ってきてくださったりもする。あの作家さんはどんな人なのかな、話題になる人は、って思ったらすぐ言って・・・助けてもらっている。私は見るだけ。一番多かったときには54冊。2箱やったね。  (略)

━ 版画作家さんと出会った後、今はどんな付き合いをされているんですか?

(略)1年に1回ぐらい会いますね。「いけのようこ」さんという方で。『だいすきセレスティア』って本は牛の絵なんだけどアップリケを作ってそれが絵本になってるのね。剣淵町の絵本の館に連絡して、その作家さんとつながったんです。廃版になってて、ない。図書館では買えないと言われてね。本がほしいんですけどって言ったら、直接電話をくれて、とっても嬉しかった。
 「本で知って、その先があるんですね」(重田さん)
テレビより早いですからね。

星野道夫さんの本を読んでてジェーンさんだったかな、がでてきてね。ああ、心のつながりのある人がいるんだなと思ってね。ジェーン・グレイドだったかな。それで、ジェーン・グレイドの本がないかと言ったら、その本を佐賀県立図書館から取り寄せてもらったことがある。めったに見ることが出来ない本で。ちょっと言ってみただけなのに、ここまでしてもらって申し訳ないなあって。

「そんな人がいるんですか?って私たちも教えてもらってる。書名は図書館で買う時に見とるはずやけど、全部覚えとるわけじゃない」(大崎さん)

━ 職員からのサポート、一番最初にしてもらったことで覚えていることはありますか。

やっぱり星野道夫さんかな。最初に私がこういう人の本あるー?と言った人そのものじゃなかった。でも違うけど?!って思いつつ、開いてみたら広がったあー!
ぴったり私にくる。

昔は5冊しか借りれんやったから、子どもに読む紙芝居借りたらそれだけやったけど。
【現在は貸出冊数に制限はなく、2週間の期間、何冊でも借りれる】
最初見たときの衝撃よね。何これ?借りてもいいの?って。いまりの幼稚園バスを降りたときやったね。幼稚園バスとおんなじ黄色やね。一度間に合わなくて、ながやま(次のステーション)まで追いかけたことがあって・・・待ってる人がいっぱいいるのねー

━ 他の人にぶっくんを勧めたりしますか。

します。します。ぶっくんで借りたらいいやんって。もったいない。周りに伊万里まで行く人があんまりおらんのやけどね。
みんなで見たいと思ったら、これよかごとあるね。これ買うてみようかね、となりますよね。孫は3歳と6歳と2年と4年生。2年と4年生はもううちにあんまり来んくなったけどずいぶん読みましたねー。
きっかけを作ってくださると助けてもらうとすごい楽。

Aさんご夫妻、Aさんのお母さん、Aさんの子ども、そして4人のお孫さん、まさに親子四代、27年間にわたってのぶっくんとの深い深い関わり、一人の人、一つの家族のこのようなぶっくんとの深い関わりの背後に、ぶっくんを日々の暮らしの中で無くてはならないものとして利用する数しれぬ利用者のあることがうかがわれる。また本と人、人と人との出会いをもたらし、本を介して人々の日々を明るいものとするため、力をつくす職員の姿が
Aさんのお話の中から、何度もなんども立ち現れてくる。

この項、続く。 (卒業論文からの引用は大賀さんのお許しを頂いています。)
























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