11月3日、諫早市たらみ図書館の開館15周年を記念して行われた、同館を設計した寺田芳朗さんの講演会に出かけた。寺田さんは横浜にある設計事務所寺田大塚小林計画同人(和設計事務所、山手総合計画研究所1983~1999.7;計画同人1999.7~)の代表をされていて、私にとっては1990年5月に開館した苅田町立図書館を設計していただいた方だ。寺田さんは苅田以前には、神奈川県大磯町立図書館を、以後は伊万里市民図書館、名護市立図書館、愛荘町愛知川図書館、小川町立図書館、君津市立中央図書館、南相馬市立図書館等を設計、いずれの図書館でも、図書館開館後も図書館との関わりを持ち続け、各図書館の現場での検証を新しい図書館の設計に生かし続けておられる。
たらみ図書館 講演会場で
たらみ図書館のこと(合併により諫早市立たらみ図書館)
旧多良見町は町立図書館が開館した2004年(11月3日)の翌年2005年3月に1市5町の合併により諫早市となっている。私が初めてたらみ図書館を訪ねたのはいつのことだったか、能登川の図書館退職後とすれば、2007(平成19)年4月以降のことだ。最初の見学で私はたらみ図書館の目を見張るばかりの活動と、その活動を自在にかつ存分に行える空間のあり方に心から驚かされた。図書館の在りようを深め広げる図書館を眼にして何ともうれしく頼もしく感じたことを思い出す。その後、たらみ図書館を訪ねる度にその思いを深めて
きた。とりわけ図書館の閉館時間後に、ギャラリースペースに隣接したスペースを22時までだったか、自由に利用できるものとしていることが心に刻まれた。
数年後、福岡県大木町の図書館を訪ねた時、そう大きくはない既存の施設を改築、改装して開館した図書館の温かさを感じる生き生きとした空間に驚かされたが、図書館を入って隣にある雑誌が置かれたスペースがそこだけ増築されたもので、たらみ図書館で行われいる図書館閉館後も利用できる場とするやり方をとりいれていることに感銘を覚えた。
また若い人たちがそこで過ごすことがうれしくなるだろうと思われる”青少年の開架スペース”は、一人でも,また友だちと一緒にでも利用できる開放感のある空間で職員の細やかで温かい配慮を深く感じる、外来者である私にとっても心はずむスペースだ。
町の図書館が開館する以前のことだが、夜遅くにコンビニの店の前に集まる若い人たちの居場所となる場づくり(「青少年の良質の溜まり場の創出)をと言われていた相良裕さん(現・諫早図書館長)の言葉がよみがえる。
町民一人当たりの貸出(貸出密度)が20点をこえ、「開館以来、年間約百回の事業を行っている」たらみ図書館がどのような考えのもとに、一つひとつどのような活動を行ってきたか、そのことを鮮やかに伝えてくれるのが下記の相良さんのレポートだ。(相良さん自身は「・・・貸出点数や数量評価に惑わされることなく、図書館に初めて足を運ぶ人を一人ずつ増やしていくことに当面は傾注したい。」と書いているのだが。)
「地域の図書館 はじめの一歩 ――諫早市たらみ図書館の事業実践報告」相良宏(『図書館の活動と経営』大串夏身編著 青弓社 2008 :同書には「まちづくりと図書館経営「市民力」―伊万里市民図書館 犬塚まゆみ 」と「図書館とまちづくり―愛知川図書館の事例を中心に 渡部幹雄」を掲載している。
町立図書館が開館するまでは、町民にとって唯一の図書館は「中央公民館図書室」だった。町立図書館が開館する8年前の1996年に発足した「中央公民館図書室友の会」の活動
は、たらみの図書館づくりがどのようなものであったかをよく伝えるものだ。相良さんの報告を紹介したい。
「1996に発足した「中央公民館図書室友の会」は、公民館図書室と緊密なパートナーになり、図書館建設が具体化する五年前に先行した移動図書館車の導入計画時には、車の仕様、車体の絵柄や名称の募集、さらにサービスステーションの選定に至るすべての計画に
友の会が関わった。
公民館図書室への友の会の関わり、そして教育委員会との信頼関係から、2000年には、友の会が図書館づくりへの想いを込めた冊子「わたしたちの図書館像」を作ることになり、のちにこれが「基本構想」と位置づけられることになった。作成に際しては、友の会会員が全国の二百館以上の図書館から要覧やパンフレットや規約などを取り寄せてデータベース化するなどの資料収集を始めた。また、高齢者班と子連れ班に分かれた図書館見学をおこない、それぞれの視点で見学ノートをまとめた。子連れ班などは旅行気分の子どもが発する声の響き具合や職員の応対を記録したり、照度計でこっそりと各コーナーの照度計測をしたりと、若干無遠慮な見学だった。そして夜を徹した勉強会とレポート作成を積み重ねた。「わたしたちの図書館像」では具体的な図書館事業を提起し、実際に全国の図書館で取り組んでいる例なども紹介した。
(略) このように、公民館図書室友の会という一活動グループが作成した提案書が、町立図書館の正式な基本構想になったことは稀有な例だろう。これらの友の会の活動は、これまで図書館がなかった地域に図書館建設への大きな風を起こしたものと考える。」
このようなすさまじい友の会の活動が行われたのは、住民と向きあい信頼関係を育みながら、住民と共に図書館づくりに関わった職員の存在が決定的なことであったように思う。
開館当初、図書館運営の柱として7つを掲げている。(どんな図書館を目指すか)注目されるのは、その一つ一つが、図書館開館数年にして実現していることだ。1番目に掲げられているのが、町内どこに住んでいても、だれでも利用できるための全域サービスだ。一つ一つの柱の明解さに目をみはる。
①町全域へのサービス
移動図書館事業を充実させることにより、サービスエリアの拡大や、学校や幼稚園、設などへも図書館サービスを届ける。
②青少年の良質の溜まり場を創出
ティーンズコーナーの運営に工夫をし、中・高生の利用を積極的にはたらきかける。また、フリースペースやデッキテラスの設置など、若い層の溜まり場としての図書館を捉えなおす。
③インターネットをはじめとした情報サービス
OPAC(利用者端末)4台のほかにインターネット端末11台(そのうち2台は午前9時か
ら午後10時まで利用できる)を分散配置し、データベースも無料で提供する。
④生涯学習事業との連携
住民グループや各種団体への情報提供を積極的におこなうとともに、集会室などは午後十時まで開放し、生涯学習活動の幅を広げる。また、海のホール(視聴覚室)や動の広場(前庭)、展示スペースなどを使った住民による催しをはたらきかける。
⑤学校への支援
学校図書館や学校司書と連携し、団体貸出や教職員用の教材貸出に対応する。また、お話会やブックトークなどの出前や選書に関する学校図書館との情報交換をおこなう。
⑥子育て支援への参画
ブックスタート事業とともに発展形として、0歳児をもつ親子へのおはなし会、ブックトークなどの企画を積極的におこなう。
⑦ふるさとを意識する
ふるさと研究コーナーを設け、地域資料の提供やまちの記録資料の展示と作成・保存にも取り組むとともに、回廊のショーウィンーを学校と地域に開放して活動紹介の場とする。
長崎県内図書館員の学び(研修)、交流の場の広がり
たらみ図書館に心動かされるのは、いつ訪ねてもワクワクする目を見張るばかりの図書館の活動はもとより、たらみ図書館(その呼びかけと人のつながり)が長崎県内の図書館の職員の人たちの研修と学びの場の底深い広がりの源流となっていると思われることだ。図書館の休館日などに定期的に集まり、そこで培われたものが、各地の図書館に伝えられていく。
旧多良見町の中央公民館図書室友の会での「わたしたちの図書館像」の作成から関わり、たらみ図書館開館後は、相良さんともに図書館の活動の中核を担ってきた職員の方(嘱託)が、私自身が基本計画に関わった平戸市の図書館の開館前後の3年間、きびしい職員体制の中、平戸市立図書館の係長(副館長)として開館準備、そして開館後の運営にあたられたことは、ほんとうに画期的なかけがえのない出来事だった。図書館(員)の魂とたらみ図書館で実践された図書館員としての仕事の仕方を、平戸市の図書館の人たちに力をつくして伝えてくださった。たらみ図書館がもたらした長崎県内の図書館づくりへの大きな影響力を思う。たらみ図書館の開館前の準備作業に県内の多くの図書館員たちが、仕事が休みの日に手弁当で応援に駆け付けたときている。
たらみ図書館は伊万里市民図書館とともに、九州(いや、全国)の中で、ぜひその活動を見てほしい図書館だ。
ティーンズコーナー
たらみ図書館を訪ねた翌日の11月4日、新しく開館した長崎県立・大村市立図書館を見学した。
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